「一貫生産」とは何ですか?
一般的に「一貫生産」というのは工場内の生産体制のことです。我が社は14,000㎡の敷地に120台を超える機械が揃った、山陰地方最大級、中国地方でも五本指に入る製造設備を揃えており、鉄・ステンレス・アルミなどの金属材質の薄板を「切る」「削る」「曲げる」「接合する」「組み立てる」などの工程を組み合わせた「一貫生産」で完成体を作ることができます。一カ所で製造することで輸送コストを抑え、工程間のコミュニケーションも密になり、よりお客様のご希望に添ったものづくりをすることができます。私はこの「一貫生産」を我が社だけのことにとどめず、この地域全体のこととして考えています。
地域全体での「一貫生産」とはどういうことですか?
現在、協栄金属工業はおかげさまで多くのお客様からたくさんの仕事をいただき、大変忙しくさせていただいております。しかしそこで、「ウチだけが良ければいいのか?」という問いが立ちます。 我が社のある雲南市掛合町は少子高齢化が進む過疎の町であり、40数年で45%も人口が減りました。ここ数十年で商工会に加盟する会員は半分以下になりました。店主の平均年齢は70歳を超え、10年後には町に商店がなくなると噂されております。5つあった小学校は10年ほど前に統廃合されて1校になりました。このような地で若い人達が子育てをし、暮らしていけるのか?という町の現実を考えた時に、消滅可能性のある地域で我が社が存続し続けるためには「ウチだけが良ければいい」という考えは成り立たないことに気がつきます。 我が社の業務を行なうためには、資材の購入以外に、ガソリン、軍手等の消耗品や車両・建物・設備の点検・補修などの維持管理が必要です。それらを雲南市内・島根県内で調達し、地域全体でものづくり現場を整えて製造を行なうということが大切です。 もちろん実際の工場生産は協力会社との連携がかかせません。現在、我が社に仕事を発注してくださるところは、山形県から福岡県まで全国に約80社あります。この生産をするために、表面処理や機械加工などの仕事をお願いしている外注先は島根県内に32社、材料などの購入先は6社と、とても多くの協力会社があります。 この発注先や協力会社の中には、いわゆる「同業会社」もあります。「同業会社」というと仕事を取り合うライバルをイメージされるかと思いますが、現在、この地域において同業会社もお互いのオーバーフローを補い合う協力会社の位置づけとなっています。こうした会社は県外にもあり、広島方面などの同業会社から仕事を依頼されることも少なくありません。 つまり、地域全体での「一貫生産」というのは、地域の外注先や購入業者、同業会社など全ての協力会社と連携した生産体制づくりを総合し、この地域全体で一貫した生産を行っていくことです。
同業者がライバルではなく協力会社というのが印象的ですが、
これは何故ですか?
世の中で考えるとリーマンショックの影響が大きいです。仕事が国外にどんどん出て行き、多くの同業者、とくに家族経営のような小さな工場の倒産廃業が余儀なくされました。我が社も非常に厳しい状況にまで落ち込みましたが、社内を改革し、多くの協力を得て、なんとか会社を維持・回復させることができ、現在に至っています。このように仕事を受けられる工場が減っている中で、近年、為替や品質等の影響により国外に出ていた仕事が国内に戻ってきました。当業界は初期投資が高額で、数千万円の機械を導入する必要があるので、いくら受注量が多くあっても、すぐに新規参入や事業拡大をすることは難しく、既存の会社同士が連携し補い合うことで生産量をこなしていくことが必要となっています。こうした協力会社との連携は、お客様からの要望である「少量多品種・短納期・高品質・低コスト」に応えることにも役立っています。
経営をしていく上で、リーマンショックなど社会からの
影響をどのようにとらえていますか?
リーマンショックの影響は本当に大きく、経営の内容やものの作り方をどんどん変えていく必要がありました。少量多品種対応や一貫生産というのも、リーマンショックを乗り越えてくる中で生まれてきた生産体制です。現在、我が社の経営状況は安定していますが、歴史を振り返ってみると、○◯ショックというのは定期的に発生しているので、リーマンショックから10年が経とうとする中、近い将来、また何か○◯ショックのような不況が起きてもおかしくないと考えています。 現在、我が社は、色々な組織に所属し、セミナーや情報交換会、展示会などに参加するなどしながら、情報を積極的に収集する努力をしていますが、世界経済を見ると今の世の中は自分の国さえよければいいという風潮が強まっているようで、今後、貿易が良くなっていくことが想定しづらい時代のように感じます。海外取引について、我が社には直接関係ありませんが、取引先のお客様には影響があり、主要な取引先からの仕事が激減する可能性はあるわけで、大手との取引があるからといって、これからも仕事の安定が期待できるものではありません。 こうした何が起こるかわからない、先の見通し難い社会情勢の中において、状況に合わせて柔軟に変化できるのが中小企業の強みだと思います。そのために必要なのは、情報収集や広報活動、人材、いや人財を確保するなど良いと思ったことは直ぐに行動に移すことだと考えています。
人財についての考えをお聞かせください。
現在、我が社の社員数は82名で、50代以上のベテランが半数近くになっています。このベテランの人たちは、幾度もあった不況に耐え、現在の状況をともに作り上げてきた同志であり、技術力も高く、我が社の生産の多くを支えてくれている方々です。この技術を若い世代に伝えていくことが我が社の早急な課題で、今の生産体制を維持していくために、年に4名の新卒採用ができるように努めています。 そのためには、広報活動がとても重要です。わが社は社員の8割が雲南市在住であるため、このエリアでは割と有名な会社だと自負していましたが、実際に、子供たちに聞いてみると、協栄金属工業のことを知っている人は、ほとんどいないという現実を突きつけられます。近頃、私は、高校や中学校で講演することが増えたため、直接話をしてみると、高校生たちから島根が好きだという声が多く聞こえてきました。ただ、地域にどんな企業があるのかをよく知らないために、県外に進学で出た学生が島根に帰れないでいるという状況も多くあるので、我々企業がもっと学生に、会社のことを知ってもらう努力をする必要を感じています。 協栄金属工業の理念は和を何よりも大切にする事です。「オレがオレが」と自分だけが良ければいいというのではなく、会社や同僚、協力会社、関係機関、地域社会などみんなのことを考え行動できる人が我が社の企業風土に合う人です。我が社の社員は、学生時代、どちらかというと目立たない、寡黙なタイプだった人も多くいますが、入社後は自分の強みを見つけ、伸ばし、確固たる自信に基づく強靭な力を発揮してくれています。突出した一人の力ではなく、みんなの総合力が大事なのです。 ひとりひとりの強みの見出し方として、とくに製造部門では、以前はひとつの仕事に特化しがちだったのが、少量多品種生産へ移行する中で、いろいろな仕事をやってみてもらううちに向いているものがわかるようになりました。これは障がい者も同じで誰にでも得意不得意がありますが、我が社の教育方針は、適性を判断し、できるだけ得意分野を伸ばしていくよう心がけております。
障がい者の雇用はどのようにお考えですか?
我が社の障がい者雇用率は8.76%です。我々にとっては障がいのあるなしなど一切関係なく、それをその人の個性だと考え、優れているところを伸ばし、活躍できる仕組みづくりを心掛けています。その結果、不良率は、ほどんど0%となり、キチンとした仕事をしてくれる人財として障がいのある社員も我が社の大きな戦力になっています。社会貢献とか法律で決まっているからということではなく、純粋に同じ目的を追求するための同志として活躍してくれています。事実、彼らがいないと現場は回らない状況であり、障がい者も含め、全ての人財を活かし、和をもって総合力を発揮することが我が社の一貫生産の基礎となっています。
人財を活かし、和を大切にする企業風土はどこから来ているのでしょうか?
我が社の企業風土は、昭和47年に創業してから先輩方々が、ずっと長年に亘って積み重ねてこられたものです。そもそも我が社は過疎地域の雇用を守るためにできた会社です。昭和46年、大阪の会社が企業誘致により、この地で工場を稼働させましたが、ニクソンショックの影響により、わずか8ヵ月後にこの工場は倒産してしまいました。みんなが途方に暮れる状況の中、他人に頼らず自分たちの手で工場を動かそうと「ふるさとにともった灯を消すな」を合言葉に、町ぐるみでお金を出し合い会社を再建し、今日に至っています。そのため、これまでずっと助け合い、協力し合うことを是としており、創業精神に基づく「地域と共に成長・発展する企業を目指す」という想いは、今も変わらず受け継がれています。そして、この会社の原点にある想いこそが、一貫生産体制の礎を作り出し、現在の盤石な状況へと導いてくれたのだと思っています。
これからの協栄金属について、想いを聞かせてください。
リーマンショックを経て、それまでの外注先が倒産・廃業し困っておられたお客様側のニーズと、多くの機械を所有しながら一部の機械に稼働が偏っていたため、全ての機械をまんべんなく動かしていきたい我が社のニーズが合致したところに一貫生産はあります。 これからは、お客様にとっても、我が社にとっても、お互いに良い状況をもたらす一貫生産をしっかり進めていきたいと考えております。そのためには、まず協栄金属工業をもっと知ってもらうことが必要です。一つの有効な方法に工場見学に来ていただくというのがあります。我が社の設備を見ていただくことにより、お客様の方から、「こういうことができませんか」とご依頼やご契約をいただくことも少なからずあります。 ちなみに現在、協栄金属工業が生産しているものの内、約3割が農業機械関係で、約3割が外食関係ですが、これまで培ってきた経験や技術を活かし、今後は他の分野にも進出できるよう商談会や展示会にも積極的に参加しております。ホームページなどでの情報発信を強化しているのも同様の理由からであり、工場見学に来られないお客様にも我が社の強みを分かっていただけるよう努めています。 受注が好調な今の内から、常に危機感を持って営業活動をしていくことが、先の不透明な時代の中で会社を維持・発展させていくためには、とても重要なことだと考えています。 そして、「ウチだけが良ければいい」ではなく、この過疎地域の雇用を守り、地域と共に歩んでいく企業として、掛合町、雲南市、島根県という地域をあげての一貫生産に邁進します。